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客室乗務員からデザイナーへ。PC知識ほぼゼロだった私のキャリアチェンジ #わたしのスキル解放記

自分が当たり前のようにやってきたことが、別の誰かから見ると大きな価値になることがあります。

「#わたしのスキル解放記」では、自身の持つスキルに気づき、それをバネに人生の次のステージへとジャンプした人々の物語を紹介していきます。
今回お話を伺ったのは、自身でデザイン会社を運営するデザイナーのむらさきさん。ココナラでは、資料デザインをメインにサービスを提供しています。

デザインの勉強を始めたのは4年ほど前。それ以前は客室乗務員の仕事をしていて、パソコンを触ったことすらほとんどなかったそうです。

なぜ全く未経験の業界からデザイナーにキャリアチェンジしたのでしょうか。また、短期間でどうやってプロのデザイナーへと駆け上がってきたのでしょうか。

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幼い頃から好きだった絵の道を諦め、客室乗務員になった理由

「小さい頃から絵を描くのが好きでした。高校の進路を決めるときに、普通科に行くか芸術科に行くか悩んだのですが、絵の具で色を塗るのが苦手で……。“私にその道は無理だな”と思って、絵やデザインの道に進むのは諦めたんです」

現在、デザイナーとして活躍している​​むらさきさん。イラストやデザインには昔から興味があったけれど、一度はその夢を諦めた過去があります。

その後、普通科に進んだむらさきさんは、「英語」という別のやりたいことを見つけ、大学では外国語や海外の文化を学ぶ学科に進学。次第に客室乗務員を志すようになります。

「英語を使ったり国内外いろいろなところに行ったりできる仕事はなんだろうと考え、客室乗務員になりたいと思うようになりました。客室乗務員の仕事をしたかったというよりは、社会人になってもやりたいことを続けられる働き方を探した結果、この仕事にたどり着いたという感じです」

むらさきさんは無事に内定を勝ち取り、客室乗務員としてのキャリアをスタートさせました。入社後は、大変なことは多いながらも、優秀な先輩、前向きな同期の仲間たちに囲まれ、充実した日々を送ります。
しかしある出来事をきっかけに、状況は一転することに……。

「結局私は、絵を描くことを諦めきれていないんだな」

プライベートでも、新しい発見や刺激を通して自分を見つめ直しすことができる旅行が大好きなむらさきさん

客室乗務員として就職してから、日々国内外問わず忙しく飛び回っていたむらさきさん。しかし、2020年から始まった新型コロナウイルスの流行で、日常に変化が訪れます。

「飛行機に乗る人が一気に減って、シフトが普段の半分以下になったんです。これまでは寝るためだけに家に帰るような日々を送っていたのに、突然自宅待機が増えて。急に時間ができたけど、やることはないし、感染症が流行しているから人にも会えない。自然と自分のこれまでを振り返ったり、将来について考える時間が増えていきました」

客室乗務員の仕事は、楽しくてやりがいもある。でも不規則な勤務形態で、心身ともに負担が大きいのも事実です。結婚や出産を経ても活躍し続けている先輩はいますが、「今後ライフスタイルが変わっても今と同じ働き方ができるか?」と自分自身に問うたとき、心から「できる」とは言えませんでした。

また「客室乗務員しか経験したことのない自分には、それ以外の仕事に活かせるスキルも経験もないのでは」と、漠然とした不安も感じていました。

幸い、時間だけはたくさんあります。それなら自分にできることを探そうと、むらさきさんは動き始めます。まず考えたのが「自分が心から楽しめることは何か」でした。

「過去を振り返るうちに『そういえば私、絵を描くのが好きだったな』と思い出して。それに気づいたら、もうチャレンジせずにはいられなかったですね。その時は、やっと自分の原点に戻れたような気分でした」

学生の頃、一度は諦めたはずの絵の道。むらさきさんの心の中に、再び「絵が好き」という情熱が燃え上がります。しかし、未経験からのチャレンジは、そう簡単にはいきませんでした。

みんなより何歩も遅れてのスタート。それでも折れずに続けられた理由とは

プライベートで飛行機に乗った時に撮影した富士山

「まずは仕事の待機時間を使ってイラストを描き始めました。でも、描けば描くほど周りとのスキルの差を実感して……。私より絵が上手な人はたくさんいます。そのうえ、絵で稼げる人はほんの一握り。未経験からイラストを仕事にするのはハードルが高すぎると改めて気付き、すぐに断念してしまいました」

中学生の頃に諦めた夢に改めてチャレンジしたことで、ようやく「絵を描くこと」の諦めがつき、納得してその夢を手放せたというむらさきさん。さらにそのチャレンジのおかげで、一つの新たな軸が生まれました。

「好きなだけじゃだめだ。ちゃんと仕事にできるもので、スキルと経験を積みたい」

そう考えてたどり着いたのが、デザインの仕事でした。

「客室乗務員のメイン業務は、接客とフライトの準備です。一日のほとんどを機内で過ごすので、パソコンに触れる機会はほとんどなくて。『デザインを仕事にしたい』と心が決まっても、独学で叶えられるとは思えず、スクールに通うことにしました」

そうして、パソコンを触ったことすらほぼなかったむらさきさんは、デザインのスクールで学び始めました。「大きなチャレンジではありましたが、社会人になっていろいろ経験したことで覚悟をする準備が整っていたのだと思います」と当時を振り返ります。

覚悟が決まったら、あとは前に向かって突き進むだけ。時々あるフライトの仕事以外のほとんどの時間を、デザインの勉強に費やす日々を送りました。

「スクールに入ったからといって、すぐに成果が出たわけではありません。あいかわらず分からないことの方が多いし、私より何歩も先に進んでいる人もたくさんいる。私の通っていたスクールでは、受講生が参加できるデザインコンペがあったのですが、長らくそれにも選ばれませんでした。

でも『デザインが楽しい』という熱意だけで頑張り続けて、ついにコンペで選ばれることができたんです。報酬としてはお小遣い程度でしたが、『私の作ったデザインにお金を払ってくれる人がいるんだ』と思うと嬉しくてしょうがなかったですね」

デザインの仕事に専念するため、客室乗務員を2年間休職

コンペに選ばれたことで自信をつけたむらさきさんは、いよいよスクールの外でもデザインの仕事にチャレンジし始めます。

まずは、未経験でも始めやすいクラウドソーシングを活用することに。最初はなかなか受注に繋がりませんでしたが、諦めずに案件に応募し続けた結果、少しずつデザイナーとしての仕事が増えていきました。

「デザインの勉強を始めてから1年後には、クラウドソーシング経由で月数件のお仕事をいただけるようになりました。もっと新しいデザインにも挑戦したいし、もっとスキルアップもしたい。でも、その頃にはフライト数も元に戻ってきて、働き方を見直さなければいけない状況でした」

このままだと、軌道に乗り始めたデザインの仕事をセーブしなければいけなくなる。でも、やっと見つけたやりたいことを諦めたくない。そう考えたむらさきさんは、会社の休職制度を活用し、2年間デザインに専念することを決意します。しかしそのときはまだ、近い将来自分が独立し、デザイン会社を立ち上げるなんて想像もしていなかったそう。

「デザインを辞めたくないとは思っていたけど、客室乗務員の仕事も辞めようとは全く思っていなかったです。せっかく休職制度があるのだから、この期間にやりたいことを思い切りやってみよう、くらいの気持ちでした」

客室乗務員を経験したから、デザイナーとしての「私だけの強み」が生まれた

休職を決めたむらさきさんは、本格的にデザインの仕事を増やすための方法を考え始めます。そんな中、飛躍のきっかけとなったのがココナラでした。

「安定的に仕事を受注していくためには、もっと効率よく時間を使わなければいけません。そのためにまず、コンペへの応募やクライアント企業への営業活動にあてる時間を減らそうと思って。自分から応募するのではなく、プロフィールやポートフォリオを登録し、自らがサービスを作り価格を決め出品するスタイルのココナラを利用し始めました」

とはいえ、ココナラではさまざまなジャンルのスキルが出品されており、デザインは特に競合の多いジャンルです。ベテランデザイナーも多い中、未経験スタートのむらさきさんはどのように差別化を図ったのでしょうか。

「当時、まだ経験の浅い私が選ばれるためには、競合が少ないところで実績を伸ばすのが鍵になると思っていました。例えばデザインと言っても、名刺やバナー、Webサイトなど、作るものはさまざまです。対応している人が少ないニッチなジャンルなら選んでもらえるんじゃないか。そう考えてデザインカテゴリの出品を調べていく中で、ある程度のニーズが見込める『修了証』のデザインから始めたら良いんじゃないかと考え、出品してみました」

むらさきさんの読み通り、修了証デザインへの依頼は順調に増えていきました。実績ができたら、対応するデザインジャンルを増やす。そうやって少しずつ、でも着実にデザイナーとしての実績を伸ばしてきました。

「私なりにスキルは磨いてきたつもりですが、経験や年数で比べると敵わない方ばかりです。それで不安になることもあるのですが、私にできることで頑張るしかないなって。特に意識していたのが、『お客さま目線に立つこと』でした。

お客さまは、目的があってデザインを依頼してくださっているはずですよね。依頼された通りに手を動かすのではなくて、お客さまが何に困っているのか、何を実現したいのかを引き出して、形にする。それが、デザイナーを始めたばかりの頃からずっと意識してきたことです」

その考えは、さまざまなお客さまを接客し、フライトごとに一緒に働く仲間が変わる客室乗務員時代に身についたものだといいます。

飛行機に乗る人は、年齢、性別、国籍はもちろん、観光やビジネスなど搭乗する目的も多様。さらに、客室乗務員は国内外多数の航路があるため、その日初めて顔を合わせるクルーと働くことがほとんどで、スムーズに協働できるよう相手の意図を汲んでコミュニケーションを取る必要がありました。その経験が、今のデザインの仕事にも活きているのです。

「客室乗務員の仕事だけをしていた頃は『私にはできることがない』と思っていました。でもデザインを始めたことで、客室乗務員を経験したからこその自分の強みに気づけたんです」

むらさきさんのココナラの評価・感想欄には、「コミュニケーションの丁寧さ」を絶賛するコメントが数多く並んでいます。その評価は、客室乗務員の経験があったからこそ生まれたもの。コメントの一つ一つが、デザイナーとしてだけではなく、個人としての自信にもつながっているといいます。

自分にしかできないことは、意外な経験から生まれるのかも


コロナ禍で突然できた時間を使って始めたデザインの副業。ココナラを活用し機会を広げていったことで、気づいたらデザインだけでも十分に生計が立てられるようになっていました。

そして、2024年6月。むらさきさんは客室乗務員の仕事を辞め、自身のデザイン会社を立ち上げます。

「この4年間で、いろんなデザインに挑戦してきました。どれも楽しいのですが、私は特にプレゼン資料や図解といった資料デザインが好き。資料が分かりやすいほど、見た人たちの間のコミュニケーションが円滑になると思うんです。今は資料デザインと、資料デザインの魅力を広めるコミュニティ運営がメインの仕事です」

自分と向き合い、「好き」を突き詰めてきたむらさきさん。最近では、ハワイやラスベガスを旅しながら、リモートワークでデザインの仕事をする機会も。ココナラ経由で「英語の資料を作成してほしい」という依頼も来るそうです。

「英語を使った仕事がしたい。社会人になっても、いろんな場所を旅したい。そして、日本の良さを世界に伝えたい」

これらを叶えるためには、客室乗務員しか選択肢がないと思っていた学生時代。全く異なる「デザイナー」に転身したものの、気付けばほとんどの理想が叶っていました。

大きなキャリアチェンジは勇気がいるものですが、その過程で、自分がそれまでの仕事で培ってきた意外なスキルが見えてくることもあります。

迷いながらも自分の「こんな生き方がしたい」という気持ちと向き合って前に進み続ければ、いつかむらさきさんのように、「好き」を詰め合わせた働き方に出会えるかもしれません。

取材・文:仲奈々