商社での多忙な日々と、オリンピックを目指した経験が、いまの血肉になっている #わたしのスキル解放記
自分が当たり前のようにやってきたことが、別の誰かから見ると大きな価値になることがあります。
「#わたしのスキル解放記」では、自身の持つスキルに気づき、それをバネに人生の次のステージへとジャンプした人々の物語を紹介していきます。
今回お話を伺ったのは、パーソナルトレーナーとして活動しているぽん太さん。プロ野球選手になれなかった経験、そしてオリンピックを目指すも出場を逃した経験を乗り越え、今はプレイヤーではなくサポート側としてトレーニングの楽しさ・喜びを伝えています。
***
パーソナルトレーナーとして活躍中のぽん太さん。現在は、「雑司が谷・護国寺パーソナルジム PONTRAY」の経営と、オンライン上でのトレーニングやダイエットのサポート、そして豊島区から委託を受け、区民向けの運動指導も行っているひっぱりだこの人気トレーナーです。
子どもの頃から野球に打ち込むも、プロになる夢を諦めて大手商社に就職。東京オリンピックの開催が決まったことを機にふたたびスポーツへの情熱が蘇り、オリンピック出場を目指して働きながらアスリートとしても活動するなど、激動の20代・30代を過ごしてきました。
それらの経験が、トレーナーというキャリアにどのように繋がってきたのか。挑戦と挫折を経て「体が変わると心も変わり、人生が楽しくなる」という信念にたどりつくまでのお話を伺いました。
こういう人が、プロになるんだな……
スポーツにおいてのぽん太さんの原点は、小学2年生で始めた野球。地元の強豪チームに入団し、順調に実績を重ねていきます。チームメンバーの中では小柄だったものの、体格差のハンデを跳ね除ける努力で常時レギュラーのポジションを獲得。そして、甲子園を夢見て強豪校と呼ばれる高校に入学しますが……。
中学生のときは同じレベルで切磋琢磨していた仲間の活躍をテレビで目の当たりにして、「次は自分が日本一になりたい。プロの野球選手になりたい」と思うようになったぽん太さん。慶應義塾大学の野球部に入部し、プロの世界を目指して努力を重ねますが、そこでも再び壁にぶつかりました。
体が小さいことは、長年ぽん太さんの強いコンプレックスでした。自分は、プロにはなれないーー。そして夢を諦め、会社員として総合商社に就職したのでした。
「選手としてオリンピックの場に立ちたい」
夢を諦めてしばらくは、商社マンとして忙しい日々を過ごしていたぽん太さん。スポーツへの想いは日に日に薄れていきました。しかし、就職して約2年半が経った頃、ぽん太さんのキャリアを大きく変える出来事が訪れます。それは、2020年のオリンピックが東京で開催されるというニュースでした。
大学野球で挫折を経験し、スポーツで生きていくことは諦めたつもりだった。でも、心の底ではずっとチャンスを狙っていた。その想いが表出するきっかけとなったのが、東京オリンピックのニュースでした。
現在はプロランナーとして活躍する川内さんですが、当時は県庁に勤めるランナーとして注目を浴びていました。その姿を見て「仕事と両立しながら世界を目指せるのか」と衝撃を受けます。
ぽん太さんは仕事とスポーツを両立できるよう、激務の商社を退職し、大学職員へとキャリアチェンジ。いわゆる“エリート”としてのキャリアを手放すことにはまったく躊躇がなかったといいます。
「それよりも『オリンピックに出たい』という想いが圧倒的に強かった」とぽん太さん。後発組でもチャレンジしやすいトライアスロンのトレーニングから開始し、仕事の合間を縫って練習を積んでいきました。
開始当初は順調でしたが、次第に仕事と3種目(水泳、自転車、ランニング)のトレーニングを両立することに限界を感じるようになり、開催2年前には一番得意だった自転車競技に照準を絞りました。
仕事前後の時間をフルに使い、毎日ハードトレーニングを敢行。朝5時半から3時間自転車に乗り込み、そのまま出勤。退勤後も同様に自転車に乗り込み、1日130kmほど走っていたそうです。そして努力の甲斐もあり、ついに「オリンピックに手が届くかも」という手応えを感じられるところまで上り詰めます。
オリンピック出場の夢は叶わなかったぽん太さんでしたが、スポーツに対する思いは、また別の形で花開くことになります。
ジムのトレーナーにキャリアチェンジを考えた途端、コロナ禍に
2014年にオリンピック出場を決意してから5年間、ぽん太さんは夢に向かって走り続けてきました。出場は叶いませんでしたが、「得られたものは大きかった」と晴れやかな顔を見せます。
そう思えたのは「やりきった」という達成感からだけではなく、トレーニングを続ける中で新たな目標が芽生えていたからでもあります。
アスリートとしてやりきったあと、サポート側としてトレーニングを続ける道を選んだぽん太さん。フィットネスジムでのアルバイトで経験を積もうと考えていたものの、ここでもまた新たな試練が訪れます。新型コロナウイルスの流行によって、フィットネスジムを取り巻く環境が大きく変わってしまったのです。
パソコンやスマートフォンを活用したオンライン指導。これなら自分にもできるかもしれない。そう考えたぽん太さんは、運動不足を感じている人や体型が気になる人に向け、ココナラでオンライントレーニングを提供することに決めました。
かつての自分のような競技の世界で闘うアスリートではなく、あくまでも運動初心者や一般の人を対象にした背景は、会社員として働いていた頃の経験にありました。
多くのトレーナーが、専門学校や大学でトレーニングを学びキャリアを積んでいくなか、会社員として勤務経験のあるぽん太さんは異色の存在です。
しかしその経験こそが、トレーナーとして支持される理由にもなっていきました。
継続する難しさを知っているから、寄り添うことができる
健康や体型のためには、お酒や不規則な生活は止めたほうがいい。それはトレーニングの世界の常識ではありますが、実際には仕事柄完全に止めることは難しいという人がほとんどです。ぽん太さんはその現実を知っているからこそ「できることを少しずつやればいい」というスタンスをとり、それが強みとして評価されていると感じているそう。
野球少年だった頃、体格に悩んだときも、トレーニングをして自分の体が変わることで少しだけ自信が持てた。会社員時代、忙しい毎日の中で少しでも運動をすることで、仕事にも前向きに取り組めるようになった。運動を通じ、そういった“変化”を感じられることで、考え方もポジティブになっていく。その実体験が、ぽん太さんのトレーナーとしての信念を形作っているのです。
「身体を変えると心も変わり、人生が楽しくなる」
「何をやっても続かなかったのに、健康的な生活を習慣化できた」「体が軽くなって、なんだか元気もでるようになった」とポジティブな口コミで溢れているのも、ぽん太さんのサービスの特徴です。
厳しく指導するのではなく、相手の状況に寄り添い、なにか一つでもできたことを評価する。その姿勢が、多くの人の心をつかんでいます。
スタートから約3年が経った現在、ココナラでのトレーニング販売件数は130件以上、そして5点満点中の4.9と、順調に評価を得ています。勇気を出してオンライントレーニングを始めたことで、自身のキャリアはもちろん、考え方・価値観にも新しい風が吹き込まれたといいます。
現在はオンライン指導に加えてパーソナルジム経営、区民向けの運動指導など日々忙しく、「平均睡眠時間は3~4時間くらい」と苦笑しつつも「毎日充実しています」と胸を張るぽん太さん。
「身体を変えると心も変わり、人生が楽しくなる」
いろんな壁を乗り越えてきたぽん太さんが、たどり着いた想い。その想いは確実に人々に届き始めています。
取材・文:仲奈々
撮影:飯本貴子