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「素敵な人なのにもったいないな」フラストレーションを“スキル”に変えた、人事部社員の発想の転換 #わたしのスキル解放記

自分が当たり前のようにやってきたことが、別の誰かから見ると大きな価値になることがあります。

「#わたしのスキル解放記」では、自身の持つスキルに気づき、それをバネに人生の次のステージへとジャンプした人々の物語を紹介していきます。

人事歴15年以上、約2000人の採用面接を担当した経歴を持ちながら、“その場限り”で終わってしまう採用の仕事に対し「誰かの役に立っているのだろうか」という悩みを長らく抱えていた森田(仮名)さん。そこから生まれた「面接のサポートで人の役に立てないか」という発想が、新しいキャリアを築く足がかりとなりました。

仕事に抱く不満は、スキルの種になる——。会社員と人事カウンセラー、二足のわらじで活躍する「ワーママ人事カウンセラー」こと森田さんにお話を聞きました。

「すごく素敵な方だったのに、もったいないな」

人事歴15年以上。大手外資系企業で人事マネージャーとして働く森田さん。数ある人事の仕事の中でも「採用」を主軸にキャリアを築いてきた彼女は、これまでに面接した人数は2,000人以上、目を通した履歴書・職務経歴書は1万件以上という、まさに“採用のプロ”です。

「人と話すことが好き」と語る森田さんにとって、毎日のように社内外様々な人と話す採用の仕事はまさに天職。しかし経験を重ねれば重ねるほど、ある“モヤモヤ”が募っていきます。

「経歴も人柄もすごく素敵な方なのに、“伝え方”が今ひとつ足りなくて次のステップにつながらない、という方が結構いらっしゃるんです。同じ経歴でも、事前準備や伝える順番、取り上げるエピソード次第で面接官に与える印象はガラッと変わります。

面接をしながら、『もっとこうしたら伝わるのに』『もっとここを聞きたいのに』と思うことが何度もありました。でも候補者と面接官という立場上、率直なフィードバックをする機会はほとんどありません。

目の前の人の改善点が明らかに分かっているのに、伝えられない……。そんなモヤモヤが積み重なり、いつしか『私のやっていることって、誰かの役に立っているのかな』と不安を感じるようになったんです。何度面接を重ねてもそのモヤモヤは消えなくて。それは、昇進しても変わりませんでした。」

人事としての実績が認められ、マネージャーに昇格した森田さん。しかし、あくまで認められたのは社内から。自分がこれまで面接してきた人たちに対して、自分は何か価値提供ができたのだろうかーー。葛藤は消えませんでした。

ちょうどその頃。ライフステージの変化やキャリアアップのため、転職を検討し始める友人たちが周りに増えてきます。そして人事という職業柄、森田さんはそんな友人たちからキャリア相談を受けるようになりました。

「現役面接官として、面接官がどんなところを見ているのか、事前準備はどんなことをしたらいいのかをアドバイスしたところ、友人たちがすごく喜んでくれました。それまで人事のスキルは社外では活用できないと思っていたので、こんな需要があるとは思わず……。思わぬ形で人の役に立てている実感が得られて、すごく嬉しかったことを今でも覚えています」

「こんなものがスキルになるの?」の衝撃

しばらくは身近な友人たちに向けてキャリアカウンセリングを行っていた森田さん。副業として本格的に活動をスタートさせたのは、スキルマーケットの「ココナラ」に出会ったことがきっかけだったと語ります。

「実は『ココナラ』を初めて利用したのは、サービス提供者としてではなく、“購入者”としてでした。

娘の七五三写真のレタッチをしてくれるサービスを探していたとき、『ココナラ』を利用すれば個人間で依頼ができると知って、試してみようと思ったんです。依頼してみたら、想像以上に素早く綺麗に仕上げていただいて!『こんな便利なサービスがあるんだ』と感動しましたね」

写真のレタッチを通じて、個人間でスキルの売り買いが気軽にできる『ココナラ』の仕組みに興味を持った森田さんは、ふと「ほかにどんなスキルのやりとりがされているのだろう」と気になり、レタッチ以外に出品されているサービスに目を向けてみます。

イラストやデザイン、プログラミングから占い、人生相談まで——。出品されているものを見て、「こんなスキルも売れるのか!」と目からウロコが落ちます。そんな中、「面接練習」や「キャリアカウンセリング」といったサービスが目に留まりました。

「“企業に所属する面接官”以外の立場からなら、これまでの経験を活かしたアドバイスができる。必要な人に、しっかりと価値提供ができるかもしれない」

そのとき芽生えた小さな自信が、「ワーママ人事カウンセラー」としての第一歩になりました。

私の実績は、世の中に求められるスキルになるのだろうか?

森田さんが「ココナラ」で最初に提供を始めたサービスは、面接練習。面接官としてはこれまで何百回、何千回と経験を重ねてきました。しかし現場では、採用候補者にフィードバックをする機会はもちろん、面接官として相手から評価される機会もほとんどありません。そのためスタート当時は不安の方が大きかったと振り返ります。

「『ココナラ』では、サービスを受けた人が5点満点で評価する仕組みがあります。つまり、私が相手にフィードバックするだけでなく、私の面接練習が役に立ったかどうかも評価されるんです。

これまで10年以上かけて築きあげてきたものが、世の中に求められているのかそうでないのか、明確に数字で評価される。出品したサービスが初めて購入されたときは、嬉しい反面そんな怖さがありました」

森田さんの心配とは裏腹に、初めてのサービス提供後に届いた評価は“5点”と最高評価でした。

「これまで抱えていたモヤモヤが晴れていくようでした。『私が悩みながらもやってきたことは、間違っていなかったんだ。これまで面接官として関わってきた方にも、何かしら価値提供ができていたのかもしれない』と自信にもつながりましたね」

それから森田さんは、本業と平行して副業人事カウンセラーとしての活動も本格化させていきました。

これまでの採用面接では相手に伝えられずもどかしさを感じていたフィードバックを、副業では存分に伝えることができます。本業に抱いていた悩み、不満が副業への情熱となり、その熱意は利用者の評価にも直結していきました。

「私は、“相手の悩みに寄り添いたい”という思いから、キャリアカウンセラー以外にも産業カウンセラー(※)の資格を持っているんです。でも、企業の人事担当者としてはなかなかこれらの資格を活かせる機会がなくて……。特に採用面接では、その場限りのやりとりで終わってしまうことも少なくありません。

でも、人事カウンセラーとしてなら、相手の納得がいくまでいくらでもやりとりができる。何度面接練習をしてもいいし、何度キャリア相談をしてもいいんです。実際、私のサービスを購入してくださる方はリピーターが多いんですよ」

(※)一般社団法人日本産業カウンセラー協会の認定を受け、仕事や職場の人間関係などから生じるストレスや心の問題に対するカウンセリングを行う専門家。

“キャリア”という人生の中でも大部分を占めるテーマを扱うためか、サービスを購入してくれる方とは長い付き合いになることが多いそうです。中には、採用面接に向けた準備のために20回以上リピートをする方も。何度も書類の添削や面接練習を重ねた結果、その方は競争倍率が高いことでも知られる人気企業に就職が決まりました。

「私がお手伝いできるのは、ほんのちょっとだけ。でも、そのほんのちょっとのことで、面接で与える印象をガラッと変えることができるんですよね。合格の連絡をいただいたときは、私も本当に嬉しかったです。

この方に限らず、サービス提供後に面接の経過や合格の報告をわざわざメッセージで連絡してくれる方がとても多いんですよ。また、最後のやりとりから2、3年後に『また転職を考えているので、今度もぜひ森田さんに相談にのってほしい』とご連絡いただくこともあります」

これまで積み重ねてきた経験もスキルも最大限活かせる。そして、活かせば活かすほど“評価”や“コメント“として返ってきて、それがさらにやる気を掻き立てる——。

「企業に所属する面接官は、候補者の本心はなかなか聞けません。でも、『ココナラ』だと依頼者からの率直な声がいただける。それが、私にとっては何よりも励みになるんです」

取材中、森田さんはそう何度も力強く語ってくれました。

ココナラが軌道に乗った今も“本業”をやめない理由は

森田さんが「ココナラ」でサービスをスタートしてから約5年。今では、プロ認定(※)も受ける売れっ子人事カウンセラーとなりました。

※PRO認定制度。ココナラ内外を問わず特定分野の「プロフェッショナル」として活躍する方々を「PRO」として認定し、主にビジネスシーンで利用する方とのマッチングを促進するココナラのシステム。​

「本業では、多数の候補者の中から1人だけ内定者を決めなきゃいけないことも多くあります。そのため、どうしても目の前の相手を厳しい目で見ないといけません。

でも、副業は合格するためのアドバイスをするから、依頼者のいいところを積極的に見つけにいけるんです。だから感謝の声もたくさんいただけるし、より誰かの役に立てている実感があります」

やりがいも大きく、やればやるほど軌道に乗っていく副業。人事カウンセラーとしていつでも独立できそうな森田さんですが、今でも本業を続けている理由は何なのでしょうか。

「副業は“個人”ですが、本業では“チーム”として働いています。確かに個人の方はダイレクトに感謝の声をいただけるし、自分のスキルが評価されているという自信にもつながりやすいです。

でも、一丸となって同じ目標を追いかけたり、それぞれのスキルや経験をかけあわせて思いもよらないような成果を生み出したりすることもある“チームの仕事”もすごく楽しい。だから、今はどちらかに絞ることは考えていないですね」

また、本業と副業それぞれ取り組んでいるからこそ生まれるいい影響もあるのだと言います。

「副業を始めたことで、キャリア相談でアドバイスできる幅が広がりました。相談内容によって転職だけでなく、副業やフリーランス、起業など様々な選択肢をお伝えできるようになったのは、私自身が会社員だけでなく、個人でも仕事をしている裏付けがあるからだと思います。

また、副業でいろんな業種・職種の方の履歴書・職務経歴書を添削したり、面接練習をしたりする経験は本業にも活きているんです。いち会社員としてだと、どうしても所属する組織によって、面接や仕事で関わる方の業種や職種に偏りが出てしまいます。でも、『ココナラ』では本業とはまったく異なる業界や職種の方からの相談も多い。

そのたびに私も新しい知識をインプットできるので、本業の面接でも『この人は他業種からの転職希望だけど、この業界の経験者なら弊社だとこんな場面で活かせそう』など、より多角的な目線で判断できるようになりました」

「会社の後ろ盾がなかったら何もできない」とは、もう思わない

人事カウンセラーとして個人で仕事を始めたことで起こった“変化”。それは仕事のスキルにとどまらず、自身の生き方や考え方にもかかわるものでした。

「副業を始めて変わったことはいろいろありますが、何より自分に自信を持てるようになったことが嬉しいですね。以前は、どれだけ面接を重ねても、どれだけ資格をとっても『これでいいのかな』『まだ何かが足りないんじゃないか』と漠然とした不安がありました。

でも『ココナラ』を始めてから、多くの方が私のスキルを必要としてくれていることがわかって。『森田さんのおかげで合格できました』『森田さんに依頼してよかった』と感謝の評価をいただくたびに、『私ならできる、私なら大丈夫』と自信が持てるようになりました」

森田さんは昨年第二子が生まれたばかり。また、パートナーは転勤が多い仕事に就いているため、家族や自身のライフステージの変化によっては、近い将来働き方を考え直す可能性もあります。

「一人目を出産して仕事を休んでいるときは、急に社会とのつながりが薄くなったような気がして、常に不安や焦りを感じていました。私は会社に仕事をもらっているだけで、会社の後ろ盾がなかったら何もできないんだな……と自分の無力さを感じて落ち込むことも。

でも、今も会社を休んでいますが、当時のようなネガティブな気持ちはほとんどないんです。それは、会社以外でも自分の居場所を見つけられたからだと思います。

私にはスキルがあるから大丈夫。どこでも、どんな形でも、“人事”としてやっていける。自信がついた今ならそう言えます」

「すごく素敵な方だったのに、もったいないな」と感じても、会社員の採用担当者としては目の前の相手にフィードバックを伝えられない。そのモヤモヤを糧に、副業人事カウンセラーとしてめいっぱい目の前の相手にフィードバックを送っている森田さん。その結果、人事としてのスキルだけでなく、自身の生き方や考え方にも自信を持てるようになりました。

仕事で抱えていたフラストレーションが、発想の転換でスキルになる。森田さんのお話から、会社で培ったキャリアの活かし方のヒントが得られたように思いました。