「相手の期待値の3倍を返し続けたい」 レジェンドレーサーが切り拓く新しいキャリア #わたしのスキル解放記
自分が当たり前のようにやってきたことが、別の誰かから見ると大きな価値になることがあります。
「#わたしのスキル解放記」では、自身の持つスキルに気づき、それをバネに人生の次のステージへとジャンプした人々の物語を紹介していきます。
今回お話を伺ったのは、プロレーサーの山野哲也さん。学生時代、彗星のごとくモータースポーツ界に現れ、数々のタイトルを獲得。30代での引退が多いプロレーサーの世界で、57歳になる今も活躍し続けています。
精神的にも肉体的にもハードなモータースポーツ界で、山野さんが見出したキャリアの歩み方とは?そして、彼がココナラで提供する“スキル”とは——。
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鈴鹿でのレースに出場後、その足でインタビューを受けに来てくれた山野さん。「レーシングスーツで写真撮りますか?」とその場で着替えてくれるなど、疲れを感じさせないサービス精神のおかげで現場は一気に和やかに。
山野さんが「ココナラ」をどんなふうに活用しているのか……の前に、まずは映画のようなレーサー人生を振り返っていただきました。
毎日3時間、車庫入れに明け暮れた高校時代。
小さい頃から大の車好きだった山野さん。小学校、中学校と進学してもその情熱は冷めず、家族の都合で高校生のときに移住したロサンゼルスでは、父親の車を借りて毎日のように“ある練習”をしていたといいます。
やればやるほど、まるで自分の手足のように車を動かせるようになる。その感覚に病みつきになり、17歳で念願のマイカーを手に入れてからも、ひたすら運転の練習をする日々。夢や目標があるわけではない。ただ、車を運転するのがとにかく楽しい。
その純粋な衝動は、本人も気づかぬうちにある変化の芽をもたらしていました。
初出場で優勝。『あいつは誰だ!?』と会場をざわつかせる
山野さんの転機は、南カリフォルニア大学から上智大学に編入して初めて参加した『安全運転技術コンテスト』という大会でした。「水入りのバケツを車に乗せてこぼさないようにゴールまで早く行けた人が勝ち」など、いかに安全運転できるかを競うものです。
「自分の技量でスピードを競う競技は難しいかもしれないけど、安全運転のコンテストなら参加できそう」と気軽な気持ちで出場したところ、大学の自動車部員ばかりの中で、なんと初参加にして優勝を果たします。
優勝をきっかけに大学の自動車部からスカウトを受け、山野さんはアマチュア選手としての第一歩を踏み出します。しかしこの時は「プロレーサー」の道はまったく考えていなかったと振り返ります。
33歳でデビューした異色のプロレーサー
レースは“趣味”でいいと思っていたはずの山野さん。しかし25歳のとき、趣味で続けていたモータースポーツの競技「ジムカーナ(※)」で全日本チャンピオンを獲得したことで、一気に「プロ」への階段を駆け上がっていくことになります。
※レース用の車ではなく、乗用車で参加可能なモータースポーツ。乗用車で参加できることからプロだけでなくアマチュアからの人気も高い
山野さんがプロ転向を考え始めたのは、一般的には引退を意識し始めると言われる30歳をすぎてから。さらに、プロの世界には幼いころからサーキットに通い詰め「その道一筋」のキャリアを歩む人が多い中、長年オフィスワーカーとして働いてきた山野さんはまさに異色の存在でした。
そうしてスタートしたプロレーサーとしてのキャリア。プロ転向後も、山野さんはまるで映画の主人公のように華々しい実績を積み重ねていきます。
レクチャーなら、運転できなくなっても一生続けられる
遅咲きながら、レーサーとして快進撃を続けて来ている山野さん。しかしプロレーサーとしての“走る”仕事は、肉体的にも精神的にも大きな負荷が掛かります。
ケガや病気も含め、もしレースに出られなくなっても何らかの形で車に関わるためにはどうすればいいか。キャリアの序盤からそう考えていた山野さんは、「レーシングドライバーとして培ったノウハウをいかに一般の方々に広めることができるか」という熱い思いでジャーナリストやコースデザイナーなどにも活動の幅を広げていきます。
そのなかで、マシンのセッティングや運転方法の説明が高く評価されていたことから、「コーチング」「インストラクター」といった仕事が増えていきました。
サーキット場でレッスンを受けるのは、ハードルが高いと感じる人も多いかもしれない。より手軽にレッスンを受講できる環境を整えるため、山野さんは2019年末からオンラインレクチャーの準備を始め、2020年5月に「ココナラ」でサービスをオープンさせました。奇しくも、世の中は新型コロナウイルスの流行によりオンライン需要が急増していた時でした。
「あの山野哲也だから」に甘んじない
ココナラで山野さんのレッスンを購入するのは、アマチュアレーサーがメイン。運転中の様子を撮影してもらい、その動画をもとにタイムを縮めるためのレクチャーを行います。
「リピーターがとても多く、30回以上購入してくださった方もいるんですよ」と山野さん。「サーキットで練習を重ねて上手くなるのが当たり前のモータースポーツを、オンラインで習うとはどういうこと?」と半信半疑でレッスンを受けた人たちが次々とタイムを短縮し、「もっと上手くなりたい」とレッスンを重ねていくのだそう。
山野さんのレッスンを受けた人のコメントには、スキルに関する評価の他にも「丁寧なコミュニケーションで安心して受講できた」「返事が迅速で助かった」という声が多く見られます。
「あの山野哲也に教えてもらえるから」も購入の動機にはなりますが、満足してもらえなければ次には繋がらない——。それを知る山野さんは、提供するレッスンに決して妥協はしません。
レーサーの世界でもインストラクターの世界でも、第一線で活躍できている理由とは。その答えを、山野さんは穏やかな面持ちでこう語ります。
山野さんの言葉から感じられるのは、厳しい世界を生き抜いてきた人の矜持。「『自分が活躍し続けたい』ではなく、『お客さまやチームメイトに満足してもらいたい』と思ってやっています」という言葉の通り、どんな仕事においても、根底にある「“期待値以上”を返し続けたい」という姿勢は共通するものです。
それはモータースポーツの世界だけでなく、「長く価値を提供したい、人に喜んでほしい」と考えるすべての人に必要なスタンスなのかもしれません。
取材・文:仲奈々
写真:飯本貴子