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会社員の傍ら「やってみるか!」で切り拓いた、お笑いネタ作家の道 #わたしのスキル解放記

自分が当たり前のようにやってきたことが、別の誰かから見ると大きな価値になることがあります。

「#わたしのスキル解放記」では、自身の持つスキルに気づき、それをバネに人生の次のステージへとジャンプした人々の物語を紹介していきます。

今回お話を伺ったのは、ココナラで「お笑いネタ作家」として活動しているシメサバサンさんです。お笑いネタ作家と聞くと「芸人の経験が重要」「長い下積み期間が必要」と思う方も多いかもしれません。しかし、シメサバサンさんはどちらにも当てはまりません。

現在も会社員として働く彼がどうやってお笑いネタ作家となったのか。詳しく伺いました。

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シメサバサンさんは、漫才やコントのネタ作成だけでなく、YouTubeやTikTokのシナリオ作成、ネタの添削など、お笑い系のネタ作家として幅広く活躍しています。販売実績は約200件、平均評価は最高の5.0を誇る人気のクリエイターです。

これだけの実績の持ち主、元芸人か養成所出身などお笑いの経験がある人かと思いきや……昔からお笑い番組を見るのは好きだったものの、少し前まで「お笑いを作る側」になるとは想像もしていなかったのだそうです。

本業は映画配給会社の編集者。別ジャンルの副業を始めた理由は……?

シメサバサンさんの本業は、お笑いとはまったく異なるもの。

「普段は、映画配給会社で映画パンフレットの編集をしています。パンフレットの内容を企画したり、キャストや監督に取材をしたり、原稿をまとめたり、装丁を決めたり。

映画本編だと営業やPRなど役割が細分化されているのですが、パンフレットだと最初から最後まで担当者に一任される。それが楽しいですね」

映画好きが高じて、大学卒業後にこの映画配給会社に入社したシメサバサンさん。入社してからしばらくは、管理部門の仕事に従事していました。そこから、ひとつの映画に深く関われるパンフレットの仕事に興味を持ち、数年前に現在の部署に異動しました。

好きな映画を本業にし、キャリアも順調にステップアップ。そんな中でなぜシメサバサンさんは「お笑い」という全く異なるジャンルで副業を始めたのでしょうか。

「きっかけは、新型コロナウイルスの流行です。今の仕事は好きだし安定もしているけど、いつ何が起こるか分からないこの世の中、ひとつの仕事に依存していいのかなとも思い始めて。その頃ちょうど子どもが生まれたこともあり、『第二の収入源をつくりたい』という気持ちが大きくなっていきました。

最初はクラウドソーシングで、ネットで調べて記事にまとめる『まとめ記事』を書くことから始めてみました。ただ自分の興味のあるテーマを調べて記事にするのは楽しい半面、慣れてくると“作業”になりがちで……。記事を書くのはあくまで副業だからこそ、もっと『楽しい』と思えることをしたい、と思うようになったんです」

そして頭に浮かんできたのが「お笑い」。幼い頃からお笑いが好きで、学生時代は『エンタの神様』や『笑いの金メダル』、『爆笑オンエアバトル』をよく見ていたというシメサバサンさん。しかし学生の頃は、お笑いを仕事にしようとは一度も考えたことがなかったと言います。

そんなシメサバサンさんが「お笑いネタを作ってみようか」と考えるようになったのは、一般人がお笑いの舞台に立つことがめずらしくなくなったという時代の変化に押されてのことでした。

「毎年『M-1グランプリ』をチェックしていますが、見るたびに過去最高の参加者数を更新していて。参加者の層もどんどん変化し、ここ最近は学生さんや一般企業に勤める会社員がコンビを作って出場するケースも増えています。
『自分も出たい』と思う人が年々増えるのと比例して、ネタ作りのハードルの高さに戸惑う人も増えているのでは、と思いました。だから、そういう人のために試しにネタ作りの代行をやってみるか……と思ったのがきっかけですね」

「一般の人に向けたお笑いネタ作り」というニッチさが、見つけてもらうきっかけに

そして2022年の夏頃、シメサバサンさんは「漫才・コントの台本作り」のサービスを始めました。活動の拠点にココナラを選んだのは「出品者にやさしい」と感じたから。

「コロナ禍で外出が思うようにできなかったこと、また子どもが生まれたばかりだったことから、オンラインでやりとりが完結することを最重要視していました。いくつかのクラウドソーシングを使用してみて、ココナラは購入者の支払いが前払い制だったりメッセージのやりとりがしやすかったりと『出品者にやさしいサービス』だと感じたのが決め手になりました」

自分が作るお笑いネタの質がどの程度なのか、またユーザーにどの程度受け入れられるのか、まったく未知の状態からのスタート。ですが金額を安く設定したこともあり、お試し程度の気軽さで始めることができたといいます。

「最初はどれくらい需要があるか分からなかったので、ココナラが定める最低価格で出品しました。この金額なら変に期待もされないかなと思って……(笑)。初めての依頼は、出品から2週間ほど経った頃だったと思います」

会社の忘年会で披露する漫才やYouTubeにアップするコントの台本など、シメサバサンさんの予想通り、一般の人からの台本作成依頼が届くように。そうして、お笑いのプロ向けではなくあくまでも“一般の人”にターゲットを絞ったリーズナブルなお笑いネタの提供は、徐々に認知度を高めていきました。

「お笑いや台本作成のための勉強は……本当に特別なことはしていないんです。ニッチな需要に対応できたから、特別アピールを頑張らなくても依頼が来たのかなと思っています。

たとえばココナラで『イラスト』や『デザイン』で検索するとたくさんの出品者がヒットしますから、その中で差別化を図り、勝ち抜いていくのはかなり難しいことだと思います。

その点『お笑い』『漫才』で検索すると、『養成所に通っていた』『作家経験がある』などスキルや経験がある高単価の出品者はいますが、アマチュアで『M-1グランプリ』に出場したい方が購入するにはハードルが高い。購入しやすい金額でお笑いのネタを提供する出品者は少なかったんです」

一つひとつの依頼に対し、ネタを披露する場所やイメージするコントの雰囲気、好きな芸風、コンビの関係性などを細かくヒアリングしながら、求められる脚本を形にしていく。その一連の作業は、シメサバサンさんにとっては初めてながら楽しい時間だったそう。

「私はお笑いのプロではないですが、抽象的なことを言語化する『編集』を仕事にしていることから、客観的に『なぜこのネタが面白いのか』を分析して言語化するのは得意かもしれないと感じていました。

またネタをきちんと作ることはもちろん、問い合わせには早めに返信したり、スケジュールを守ることで信頼を得られるように心がけました。継続して依頼をいただけるようになったのは、ネタのおもしろさというよりは、管理部門の経験で培ったビジネスコミュニケーションスキルのおかげもあると思います」

本業があるからこそ「無理なく、楽しく」続けていける

出品した初月に依頼が4件。それ以降も依頼は増えていき、現在は月に15件ほどのネタやシナリオを作っているシメサバサンさん。リピーターも多く、お笑いネタ作家として安定した評価を得られるようになってきました。

さまざまな依頼に答えるためには、ネタのストックを日頃から溜めておくことが大切です。その方法についてシメサバサンさんは「“あるある”ネタを日々記録したり、『今こうなったらおもしろいのにな』と妄想したりして、頭のどこかで常にネタのことを考えるようにしている」と語ります。

シメサバサンさんに依頼をするのは、学生や社会人など、アマチュアがメイン。その場合、誰もが共感できるような「あるあるネタ」など、日常生活に即したテーマがとっつきやすいそう。常に日常生活で思わずクスッとした体験を記録したり、そこから妄想を膨らませたりして、ネタの原型を頭にストックしておくのです。

「朝早く起きてネタづくりをすることもありますが、無理せず苦にならない範囲でやることが大事だと思っています。お笑いネタ作家が収入の柱ではないので、もし仕事量が多くて辛くなってきたら仕事をお受けしないという選択肢もある。ストレスなく、報酬を気にせずできる副業だからこそ、楽しさを優先していいネタを作れているのかなと思います」

お笑いネタ作家として独立することは考えておらず、しばらくは会社員との二足のわらじでネタ作家を続けていきたいというシメサバサンさん。本業だけでも暮らしていけるのに副業を続ける理由は、やはり依頼者の評価やネタを見た人の評価がうれしいから。

「出品したばかりの頃は安価でご依頼を受けていましたが、あるとき『納品いただいたネタのクオリティが価格以上に高かったので』とおひねり(追加支払い)をいただいたんです。それはやっぱりうれしかったですし、自信になりました。

またココナラの依頼は匿名でも可能ですが、時々『シメサバサンさんのネタで漫才をしました』と動画のリンクを送ってくれる方がいます。そのチャット欄で『面白い!』というコメントを見つけると、うれしくなりますね」

収入を重視しなくても良いからこそ未経験の分野にもチャレンジしやすいのが、副業の大きなメリット。無理をせず楽しみながらできる内容、量でスタートしてみることで、新たに自分の持つスキルや得意なことに気づくきっかけになりそうです。

「未経験からお笑いネタ作家になるために何も特別なことはしていない」と語るシメサバサンさんのように、自分が積み重ねてきたことを自然に活かし、頑張りすぎずにキャリアを拓く道もあるのかもしれません。

※記事中の写真はイメージです

取材・文:仲奈々